その場所の暗いという”良さ”を呼び起こしていきたい。
倉敷美観地区内の路地を入った場所に2棟の古民家がある。
それらを一つはミュージアムに、一つは和食料理屋へと新たな創作の場へと変化させるプロジェクト。観光客の往来が多いメインの通りから路地奥を眺めると、これらの古民家は少しだけ顔をのぞかせる。ほとんど人は訪れない閑散とした場所である。まず感じたのは、場所や建物の特性を生かしてここに人を惹きつける要素を浮かび上がらせることが設計側の使命と感じた。
ミュージアムは岡山のくだものの歴史や文化を展示する計画である。また、建物前面には広い空き地があり、ここでも外構デザインを施し、子供たちや家族連れが遊べる憩いの場として創造していく計画でもある。そのため、ミュージアムは明るく、くだものの実りのように命の恵みから感じる温かさも建物には必要であった。そこで、建物自体が行灯のように柔らかな光をこぼし、暗い閑散とした路地奥を照らすような建物を構想した。
建物内部に取り残された建具や取り外す必要のある襖や障子は再利用をし、それらを外壁に張っていく。新建材である既存外壁材は剥がし、外壁に再利用する襖や障子にガラスをはめ込むことで、建物の歴史を引き継いできた柱や梁などの軸組は、ガラス越しに外部に露わになる。少しずつ日が暮れていくと、建物内部の明かりが柔らかく外部に漏れて建物全体が行灯となる。
和食料理店となるもう1棟は、客席となる部屋が元々の建物の形状や立地状、薄暗い空間であり、無理に明かりを取り込もうとすると、かえって中途半端な空間が生まれてしまう。そこで、この薄暗さを陰影という一つの特性として生かしていくことにした。建物の南北には小さな坪庭があるが、内部をより濃く影を作り出すことによって、庭とのコントラストが生まれる。
そして、この陰影の空間づくりは和食をより一層深く味わうことにもつながる。煌々とした明かりの下ではなく、はっきりとモノが見えないくらいが、人間の五感は繊細に働き、料理の香りや味わいに敏感になる。さらには、その料理が盛られる器に対する感度も変化する。
まさに谷崎潤一郎のいう陰影礼賛に、少しでも共感の意を示し、その場所の暗いという”良さ”を呼び起こしていきたい。
2022/09/01