黄昏時の光を受け止めて地平線の先で煌めく箱となるようなイメージが浮かび上がった。
岡山県の総社市は大和朝廷によって築かれたとされる古代の山城や作山古墳、備中国分寺や井山宝福寺など、歴史文化が脈々と受け継がれ、今でも古くからの風情が漂う景色が残されている。少し北に赴けば、名称豪渓を中心に奇岩絶壁と清流が織りなす自然美にも触れることができる。休日には家族連れで大賑わいをみせる大規模な農園や地元の食材や個性を生かした飲食店などが、地元民だけでなく移住者によっても賑わいをみせている。
そういった、歴史と自然が織りなす古くからの風情が残りつつも、若き力により賑わいをみせている総社に、地域の子供たちにもオープンに開くことができる、デザイナーのアトリエを計画することになった。
チェコ在住歴のあるデザイナーからの要望は、チェコにおける週末小屋「ハタ」のように、自然の中で落ち着いて自分の趣味や創作活動をしたいということだった。ただ小屋の雰囲気は、現地の「ハタ」のようなログハウスや素朴な感じではなく、「どちらかというとかっこいい」小屋にしてほしいという条件付であった。時に、条件がなく自由な時ほど創造の拠り所をさまよい迷子になってしまう。そこで、総社におけるハタを創造するため、何度か現地を訪れた。デザインの拠り所として感じたのは大きく2点あった。
様々な時間帯で現地に訪れたが、総社の古代からの時間と場の力が湧き上がるのは夕暮れ時であった。総社は地形的には開けた平地が浅い山々に囲まれており、日が沈み始めるのが早い。西日のオレンジ色の光は山によって遮られるが、空に反射して再度この地に降り注ぐことによって、柔らかな黄昏色ともいうべき時間が長く続く。
もう一つの要素は、古墳の段々形状を少し小さくしたような50~100cmほどの段差が畑や宅地などいたるところで見受けられることであった。
この2つの要素から、段状の土地の上にぽつんと乗る小屋が、黄昏時の光を受け止めて地平線の先で煌めく箱となるようなイメージが浮かび上がった。